下川の夏の森
森の入り口に着くと、草刈機のぶうーんという音が聴こえる。
やがてこちらに気づき、小川の向こうではこの森の作り手である「山のおじさん」が手を休めて待っていてくれる。
小川のせせらぎと虫の声。
小屋のそばの小川にかかる細い丸太の橋をこわごわ渡って行くと、はにかんだ様子で「山のおじさん」が静かに歓迎してくれ、挨拶を交わす。
丁寧に手入れされた森。
しゃがみこんでみれば、まだちっちゃなトドマツが地面に顔を出しているのに気づく。小川のそばの苔生した岩には松の葉が点々と落ちていて、植物たちのミクロで精緻な世界が広がる。蟻が忙しそうに苔の道を通っていく。
よく見ると、そこはオオバコやヨモギなどの薬草たちの宝庫でもある。
すっくと立ち上がり空を見上げると、木の葉の間から陽が差し込みとても眩しい。
トドマツの葉はモコモコと密集して育ち、太陽の力をいっぱいに浴びてうれしそうだ。
小屋の中でひと息。
熱い薬草茶と小菓子を「山のおじさん」と一緒に頬張る。
陽射しから逃げるように虫たちも集まってくる。
ふとした瞬間に風が運んでくる若葉の清々しい香り。
生命力の詰まった力強い香り。
このまま夏が終わらなければいいのに、と思う。